
1話
明日はバンコクへ戻る日。
と言っても特別することもないのが、ラオス。
ラオスを旅する人は、のんびりとした時間、癒しと静寂を求めてくる。
彼も同じだった。
ヒロシはピアノ弾き。バンコクへ旅行がてらピアノを弾きにきた。ピアニストとは程遠い風貌のヒロシは、東南アジアに来ると、さらに普通のおじさんと化す。そして、現地民に紛れる。

ヒロシが、コーヒー屋にはいると、ラオスコーヒーの焙煎のいい匂いがした。でも、今日はスイカジュースかな、と、コーヒー屋で迷わずスイカジュースを注文した。そんな変わり者だ。
テラス席がいい。通行人を見ながら、いろいろイメージするのが好きだから。トゥクトゥクのドライバーも暇そうで、たまに目が合い、よう!という様な目配せしたりした。

通行人観察以外、何をすることもなく、スイカジュースを飲みながら、ゆったりとした時間が過ぎていった。
「すみません日本人ですか?」
隣の席でひとりコーヒーを飲みながらたまにこちらをちょこちょこ見てた男性だった。
あ、日本人ってわかったのか、と意味不明な惨敗感を感じながら
「はい。そうですが、なにか?」
「こんにちは。私は日本に10年くらいすんでたんです。少しお話ししても大丈夫ですか?」
確かに、綺麗な発音。しかも鼻に付かない。慣れている感ある。だいたい、詐欺師か真正日本ラバーかに分かれるのがアジア旅行の基礎。
で、、この彼は、、、多分大丈夫。しらんけど。
「いいですよ。よろしく!ヒロシです。」
「ありがとうございます。マサです」
ちなみに、ラオス人だけど、勝手にジャパニーズニックネームを持っているのはアジアではアルアルだ。
彼は、東大に留学し大学院の研究したあと、少し日本で仕事をして、わからない理由で解雇され、帰国せざるを得なかった、、など流暢な日本語ではなした。
半信半疑だが、話しは弾んだ。
半分信じないのも、アジア旅の基本。
「ラオス人はいまとても苦しんでいます。G7の国は、嘘つきです。日本は
民主主義ですよね?どうして、今独裁国家みたいになってるんですか?あなたはどうおもいますか?」
あー、なるほどこうきたか。真面目に話すべきが、適当にごまかすべきか、、。ヤマネのCPUはこんな時、最速で処理するのだ。
「民主主義だよ。一応ね。G7のなかで何処が1番嫌いなの?」
真面目に話すことになってしまった。
「それは、間違いなく日本の兄貴ですよ。」マサははっきりした声で答えた。
「あー、USですか、、」ヤマネは自分の考えをこれ以上いうとめんどくさくなると思い、話を変えることにした。
「日本ではどんな仕事したの?」
「情報処理関係の研究です」マサは食いつき気味に返事をした。
ヒロシは情報処理とか全く興味はないものの、後少ししかないスイカジュースをなるべく飲み干さないようにしながら、さらに質問した。
「へー。難しいことやってたんだね。ICTとは違うの?」
「基礎です。情報処理の。東大大学院でも研究してたんで」僕、頭いいんです!とでも言いたそうな勢いだった。でも、人は良さげだし、目も澄んでいる。いや、目が悲しそうでもあった。
ヒロシは、僕の事聞いてくるなよ、、と祈りながら、日本語で喋れることを喜んでいるかの様なマサの話しを、暇つぶしに聞いてあげることにした。
2話
「ところで、ヒロシさんは仕事はなにをしてますか?ここで仕事ですか?」
案の定。想定内。やっぱりきた。
その質問。アジアアルアル質問。
年齢は聞いてこないけど、初対面で職質は決まって行われる。
もちろん嘘をつくこともある。
無難にオフィスワーカーにしとこう。と頭をよぎったが、マサの目をみたら、
「先生してます。音楽のね」
あ、言ってしまった。
そして、決まって
「わー。先生ですか。素晴らしいですね」
と、続くのだ。
ピアニストなんて言ったらまためんどくさくなるので、それはアジア旅行沢山経験してきたヤマネは、動物的感覚で言わなかった。
マサは更にこう言った。
「何歳くらいの学生を教えますか?留学生はいますか?」
つついてくる。
「大体、18歳以上かなー」
と濁しつつ、あ、それって絞られるか、とマサの反応を待った。
明らかにマサは何か分かったかの様に
「僕の様なラオス人いますか?」
「いないねー。ベトナムやタイ、ネパールや中国からの留学生は良くみるけどね」
真面目に答えるヒロシに、身を乗り出して聞くマサの目は何か言いたさげだった。
マサはコーヒー、ヒロシはスイカジュースに手を伸ばした。
「僕は、もっと勉強したかったです。日本で、、」
「じゃ、また日本に行ったら?大学院にもどるのは?東大でたんなら仕事あるんじゃない?」
「、、、、、、、」
マサの目が突然悲しそうに見えた
ヒロシは何かダメな事を言ったに違いないと気づいた。
そして、マサはゆっくり口を開いた。
「日本人は大好きです。日本の文化も好きなんです。また行きたいといつも思います。
でも、日本は嘘つきです。日本政府は大嫌いです。」
ヒロシはマサの怒りと悲しみに満ちた目と言葉に少し戸惑った。
嘘つきか、、ヒロシはその言葉にどう返すか、また残り少ないスイカジュースをストローですすりながら考えていた。
ふと、27歳か28歳か忘れたが、バリ島で怖い経験をした事を思いだした。というか、あの経験はいまでも、ヒロシのアジア旅の基本になっている。
「信じない、ついていかない」
人一倍何にでも興味を持ち、知らない人とでも瞬時に友達になる、人を信じやすいヒロシは、アジアに来るとさらに自由になるのだ。
あれは、バリ島のスミニャック近辺を1人ブラブラしてたときだった。バリ島では、それを「ジャラン ジャラン」という。
それはまさに、いまマサと出会ったような出会いだった。
3話
「すみません。こんにちは。日本人ですか?」
ヒロシはバックパックひとつで、バリ島のスミニャック近辺をうろうろしていた。バリ島はもう3回目くらいで、若いヒロシは変な自信があった。
「はい?!はい。日本人だよ。なにか?」
道を歩きながら現地の人やバックパッカーたちとすぐ友達になり座り込んで、時間を忘れて話しをすることは珍しくない東南アジアの一人旅。
「Hi. What’s up,bro?Where are you from?alone here?」
「Hi. Im good !from Japan .Yea alone !How about you?」
から始まるコミュニケーションを楽しんでいた。
でも、気をつけないといけないのは、相手が日本語で話しかけてくる時。
ヒロシはそれもわかってはいた。
「私の名前はマデといいます。」
んーバリ島では、ワヤン、マデ、コマン、クトゥ、くらいしかいないのだ。ワヤン!と叫んだら、沢山振り向く。楽しいが、面倒くさい。
長男がワヤン、次男はマデだ。
彼は次男か。くらいしかわからないヒロシは、
「あ、どうも。ヒロです。」
ヒロシは長い?のでヒロにしている。
マデの服装はきちんとしていて、とても清潔度あり、貧しさは感じられなかった。日本語はインドネシア訛りだが、まあアルアル。
マデは兄弟が東京に住んでいて、日本に今度行くから日本語を教えて欲しいと言った。10分くらいかな、色々話しをして、なーんだなかなかいい奴だなと思ったヒロシは
「うちの父も日本語を少し習いたいと言ってます。そこに家ありますから、来て教えてくれませんか?」
のマデの言葉に
「Ok、暇だし少しならいいよ」
一人旅は基本、ノープラン。何か楽しいことに巡り会えると、そこに一日時間を費やすなんて普通だった。
ちなみに、ヒロシは、それまでも路上で出会った奴と魚釣りに行き、その人の家で焼いて、素手で食べたり、バイク2ケツで珍しい寺院や滝を見に連れて行ってもらったりしていた。
「車で来ていますから、連れていきますよ。近いです」
ヒロシはマデのトヨタのセダンに乗せてもらい彼の家へ向かった。
近いと言ったな?それにしては、結構走る。しかも、あえて小道をぐるぐる回っているようだった。
「まだ?近くないね。」
「すぐつく」
バリ島の、すぐ、と、大丈夫は当てにできないのは知っていたヒロシはとりあえず暇だし、また会話を楽しみながら着くのを待った。
15分くらい走ったか、周りに民家もない様な場所の意外に綺麗な一軒家に到着した。
ヒロシはさすがに心配になった。ここはどこなんだ?帰りはどう帰るんだ?
と考えている時
マデが「こっちです。中へどうぞ」
言われるままに部屋へ入ると、生活感があまり感じられない、机小さな冷蔵庫と、あまり綺麗ではないソファが二つあった。
そして、奥から1人の男性が出てきた。マデは彼は父だと紹介したが、
ヒロシの頭の中は、ここは何処だ?がずーっと巡っていた。
ソファへ座ると、マデが話しだした。
「日本へ行く為に日本語教えてください。」
もちろんそのために来たんだけど、なんだ?改めて。まだ、なんかありそうと、今頃直感的に感じたヒロシは、
意味不明に明るく振るまい、笑顔を振り撒いた。
マデの父はワヤンという。
ワヤンは穏やかで紳士っぽく優しそうな人だった。
ただ一つ、ヒロシが不安をよぎる言葉をワヤンから聞くまでは。
4話
さっきまでフランクに話していたマデは急に話さなくなった。
「日本語、、、教えますよ!」
空元気ってこういうことか、とヒロシは何だか可笑しくなったが。
ヒロシだけがひとり浮いているのを感じた。
ワヤンとマデは少し緊張した面持ちで何かを言いたさげにしているのだ。
「いつ日本へ?」
会話が途切れた間を埋めようヒロシが切り出した。
「実は、ヒロシさん、、」
優しそうなワヤンが、カタコトの日本語でゆっくり話し出した。ヒロシは静かに唾を飲み込み、次に発せられる言葉をワヤンの口元を睨みながら待ったが、次の言葉はヒロシの横にいたマデから発せられた。すこし焦ったように
「少しお金を貸してほしいんです。東京に行く為に貯めていたけど、母の病気の治療のため無くなって、、絶対返すので、」
嘘だ。そんなヒロシに騙され、と言う歌があったが、そんなのヒロシでも騙されない。昔のテレビドラマにでも出てきそうなこのシチュエーションにちょと笑えてきたヒロシだか
「いま、現金ないよ。」
本当になかった。アジア旅の原則。
現金は分散して持って、必要以上に財布にいれない。そしてクレジットカードは財布に入れないのだ。
「そうですか、カードはありませんか?」
一気にヒロシの危機管理のスイッチが入った。そして、思い切った。
「ありますよ。カードなら。いくらかしましょうか?」
「ten million(10,000,000)ルピアあれば」
テンミリオンルピア。凄い単位だが、
その当時は多分日本円に換算して、10万くらいだったかな?文系頭脳どんぶり勘定、計算を想像力で解くヒロシには実はわかってなかった。
「じゃいまからお金下ろしてくるよ。」
でも、変に冷静なヒロシは、日本語は教えなくていいのか?とかくだらないことを考えていた。
「車で、僕が行ってくるからカード貸してください。」
って言われて、はいはいと貸す奴がいるか?暗証番号いるんだぞ!聞かないのか?とかどうでもいい心配をしながら、ふとワヤンは?と気になり見ると入り口を塞ぐように立っているではないか。逃げれませんよのサイン?
映画かテレビドラマの危ないシーンに紛れ込んだ気分だった。こんなときに、妙に冷静でしかも可笑しくなるのがヒロシの性格。根性が座ってるていうか、おおらかというか、鈍感というか、、、。
「わかった。じゃ一緒にいこうか。」
もちろん、財布の中にはクレジットカードは入っていない。
「日本語は後から勉強する?」
またこの状況でこんな事を平気で言うのが、ヒロシだ。
そしてマデとヒロシとワヤンは3人で車に乗りATMに向かうことになった。
マデとワヤンは隣のキッチンみたいな部屋で何かしら準備を始めた。ヒロシは
“殺される?拉致される?いやもう拉致されてる?埋められる?
日本人が殺されたと新聞に載ればいいが、誰も気が付かないまま消えるのはいやだな“
いま部屋には2人はいない。
“逃げよう“
次の瞬間、気づかれないようにヒロシは静かに入り口に向かい、ドアのノブを握った。
なぜドアの鍵をしめないのか?だめだろう。詰めが甘いのもアジアだなーとかくだらないことを瞬間思っただ、とりあえずそれどころじゃない!
ドアを開けた!
そして、全力で走った!
どこをどう走ったか記憶がない。ただ、前だけ見て走った。
方向音痴予備軍のヒロシは1時間くらい彷徨い、やっと見覚えのある通りにでた。かなり迷ったが、おそらく歩いても5分くらいしかかからない場所へ、車で15分もかけて連れて行かれたようだった。
幸い、2人は追って来てないようだった。
ほっとしたヒロシは、また目的もなく歩いた。ヒロシなりの旅の基本バイブルに、1項目追加できた事に満足しつつ、いい感じのカフェに入った。
「Hi. Can I have a watermelon juice?」

ヒロシは残り少ないスイカジュースを飲むふりをしながら、このバリ島での出来事を思い出していた。
マサの目を見ながら。
嘘つきか、、、嘘つきか、、
日本人は好き、、日本は嫌い、
嫌いかぁ
ヒロシの頭の中を彼の言葉がぐるぐる回っている時
急にマサが言った
「奴隷ってまだあるんだよ」
「え??」
5話
マサの目はヒロシの目を突き刺した。
怒りに満ちたマサの目はすぐに
とても悲しくいまにも泣きそうだった。
「差別は好きじゃない、、どうして日本人は差別をするんですか、、いじめは嫌いです。」
ヒロシはすぐに次の言葉を見つける事が出来なかった。
「僕は差別もいじめもしないけど、、」
とは言ってみたものの、その言葉はなんの意味もない事にすぐ気付いた。
「日本だよね、ごめんね、」
と、日本を代表して謝ったところで、マサの悲しい目、いやその奥にある悲しい心の経験は癒されるはずがないのもわかっていた。
マサは小さな声で話しを続けた。
「ここラオスは今、独裁です。ラオス人民革命党による一党独裁体制知ってますか? 僕たちは苦しんでます。これ、、」
と、マサは数枚のキープ(ラオスの通貨)札をみせた。
「これ、何ですか?」
ヒロシは見た通り
「ラオスのお金だよね? キープでしょ?」と答えた。
「いや、、紙屑です」
確かに5-6年前に比べてラオスキープの価値は半分以下になってることをヒロシは知ってはいた。
でもさー!ラオスは社会主義国家だから昔からタイより物価は高く感じるぞ!ことに観光客の外国人価格に関しては、、紙屑なんて感じたことない!
と、心の中で反発したが、、
「日本人にはわからないですよね。」
のマサの言葉で遮られた。読心力あるのか?グッドタイミングだった。
「まあ、アメリカドルとかタイバーツで払うからあまり感じれないかもね、外国人は、、」
ラオスは輸入品が多いからタイより物価が高めに感じる。ちょっと安くなってるかな?と感じるくらい。ただラオスで作っているビール(ラオビア)や「カオピヤック」とかは確かに安くなったかなーくらいしか感じない。

「だからまた日本に行きたい。勉強もしました。努力もしました。でも、ラオス人は日本からはウェルカムされません。だから、、日本の仕事、解雇されました。、、奴隷の様に扱われて少ないお金で、、」
そしてマサの呟くように、しかもしっかりした声で言った。
「どうしていじめる。どうして差別する。」
マサの真剣で叫びのような、力のある言葉にヒロシは戸惑っていた。
「ラオスではないの?外国人を差別したり、、」
「ラオスでは絶対ないよ。」
そしてマサはしっかりヒロシの目を見て言った
「ザバイディーわかりますよね」
ヒロシは少しのラオス語は知っていた
「こんにちは、でしょ?」
マサは久しぶりに笑顔を見せてくれた。
6話
「そう。日本語の“こんにちは“です。意味わかりますか?」
マサは少し優しい目になった。
こんにちは、、、かぁ
日頃あまり意味なんて考えながら使ってないない。
ヒロシは少し適当に言ってみた。
「今日は(こんにちは)御機嫌いかがですか?とかどんなかんじ?っていう感じかなー。たぶんね。」
しらんけど。と最後に言いそうになったがやめた。
マサは静かに頷き、コーヒーに手をのばし、また静かにコーヒーをすすった。ヒロシも、もうほとんど残ってないスイカジュースを一気に飲んだ。既にスイカジュースは温かくなっていた。
マサは遠くに流れるメコン川の方を見ながら優しい目でつぶやいた。
「ラオスの人は、みんなに幸せになってほしいんです。」
「そうだね」
ヒロシは躊躇なくこの言葉を言っていた。それはラオスやタイに長い間訪れて、訪れ続けて正に感じていた事だったからだ。だから外国人にも差別やいじめは絶対しないんだよな。
マサはメコン川からヒロシに目を移した。

「“サバイディー“はラオス語で「こんにちは」という意味ですけど、“サバイ“には<幸せ>というニュアンスが含まれているんです。」
とても美しく、流暢で、難しい日本語を巧みに使うことができるマサを見ながら、本当に日本が好きなんだ、マサは、、と少し胸が熱くなった。
そして、彼のその言葉にハッとした。
「ラオスは“微笑みの国“っていうよね。たしかに、微笑みながらザバイディーって言われたらそれだけで幸せになるよ」ヒロシは少し興奮気味に答えた。
マサは微笑んだ。そしてまたメコン川の方に目をやってゆっくり話しだした。
「ラオスは沢山民族があるんです。貧乏です、みんな。お金はありませんけど、あの川や山からの恵を受けることで豊かに生活してますよ。みんな幸せです。」
「みんな幸せなんだよね。」
ヒロシはバリ島やタイ、ミャンマーを旅をしていつも感じたこと、いやそれを感じに行っていたかのかもしれない。
文明が発達した日本で暮らすヒロシに、幸せは便利さやお金では測れないことを教えてくれていた。
マサは笑顔で話しを続けた。
「自分の幸せより、みんなが幸せになってほしいと祈る言葉が、ザバイディーなんてす。もちろん日本人にも。」
ヒロシはマサが日本で負った心の傷の事を思うと心が苦しくなった。
「優しい言葉なんだねぇ」
最終回 7話
「ありがとう。」
マサは穏やかな口調で続けた。
「ヒロシさんは優しいですね!僕が日本を馬鹿にしたような言葉に聞こえませんでしたか?外国人にこんなことを言われて嫌な気持ちになりましたか?そう感じたなら謝ります、、、」
「謝るだなんて、そんなことないよ。話してくれて、ありがとう。」
ヒロシはスイカジュースのストローを勢いよく吸った。
「ははは。もうないよ。」
マサは笑って、突っ込みを入れてくれた。
「ねえ、どうしたいの?今後」
ヒロシはマサと友達になったのを感じたのか、いきなりラフに話しかけた。
「ラオス人は奨学金は無理なんです。でもね、今忙しいんです。ここでの仕事」マサは生き生きとした目に変わっていた。
「そうかー。ビエンチャンで仕事するの?コンピュータ関係?」
「そうです。コンピュータの仕事です。去年に比べて収入が3分の1になったけど、楽しいです。」
ラオスキープはいま暴落してる。マサが言ったように本当にキープが紙屑になるかもしれない日が来るかも。
ヒロシは少し真面目な面持ちで聞いた。
「日本には行かないの?行きたくないの?」
マサはヒロシの目を真っ直ぐみて言った。
「お金はないけどラオスに居たら幸せです。でも僕はまだ日本でやりたい事がある、、論文を完成させたいんです!だから、夢は諦めてないです。」
「そうか!素晴らしいね。でもまた日本で辛い思いをするんじゃ?」
マサの前向きな言葉の腰を折るような事を言ってしまった感満載のヒロシは
またダメな事言ってしまった、、と
心配しながらマサの言葉を待った。
「僕は少し、少しだけど強くなりました。日本語もあれからずっと勉強してます。前より上手くコミュニケーションできるとおもう!お金がないから、働いて、一生懸命働いてお金を貯めないとだけど。」
ヒロシは、ラオスで日本行きの資金
を稼ぐことは並大抵の事では無いことは想像できた。
マサは続けた。
「ただ、、」
「ん?ただ?」ヒロシはマサの気持ちが手を取るようにわかった。
ヒロシはマサの気持ちを代弁するように
「日本は嫌いなんでしょ?今の日本は嫌なんでしょ?」
マサは2回頷いて言った。
「そうです。今の日本は嫌いです。」
「いいことがあるよ。」
ヒロシはウキウキした口調で続けた。
「マサさんが変わればいい!」
「僕が変わる?」
「そう!大丈夫!!悪いけど日本は変わらないよ」
また適当な性格が出てしまったヒロシだったが、あながち嘘でもなかったが、付け加えた。
「変わりたい!できる!やりたい!行きたい!と思い続けると現実になるよ」
マサは嬉しそうに
「ありがとう。はい!変われる。そう思います。思い続けることは大切ですよね!」
どれくらい話しただろうか。メコン川の向こうはうっすら赤くなってきていた。
マサは思い出したように顔をヒロシに向けた。
「あ!!!」
「え???」ヒロシはまた何か問題提起か?とビクビクした。
「まだ言ってなかったよ」笑顔のマサは早く言いたそうにしていた。
「なんだろ?」
「明けましておめでとう!」
「あ、まだ言ってなかったね!明けましておめでとう!」
そして、マサは今日1番の笑顔で言った。
「今年は、より良い年越しになりますよいうに!ヒロシさんも僕も!」
ヒロシはなんだか幸せな気分になった。その気持ちを噛み締めていたら
「あ、すみません。もう帰らないと、
忙しいんです。僕!カフェバニラのコーヒーの方が美味しいよ!日本に帰る前に行ってみてね! 」
ヒロシはなんだか可笑しくニヤニヤしながら
「元気で!ありがとう!またここでいつか話したいね。あ、日本で会えるかもね」
「はい!ありがとうございました。また!」
マサは手を振りながら走って消えていった。
なんだか呆気ないお別れだったけど、ヒロシは暖かい気持ちに満ち溢れてた。
もう少しここにいよう。今日はここのコーヒーも美味いに違いない。
「Excuse me. Can I have a cup of coffee, please?」
終わり

One reply on “短編小説[ 悲しいラオスの瞳 ]”
なんか、不思議?
ラオスを、良く理解しているのかな?
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