音楽の舞台の裏には、見えない想いが満ちている。
国際コンクールに出るというのは、
やっぱり「勝ちたい」という思いがあるから。コンクールはそれが目的でもある。
ピアニストたちは、自分の音楽に自信を持っているだけでなく、
「認められたい」という気持ちもきっと強い。
そのチャンスをつかみ、
これからの自分の演奏の場を広げたい――
そんな思いがあるのは、ごく自然なことだ。
そんな気持ちがないピアニストは、
大変な国際コンクールにわざわざ挑戦したいとは思わないだろう。
今や、コンクールや、ましてや難しい国際ピアノコンクールとは無縁な、
平凡なローカルピアノ弾きの僕には、
想像もつかない世界だ。
それに対して、
「出るだけでもすごいよ」
「予選で落ちても、入賞できなくても、あなたは素晴らしい」
「コンクールなんて出なくてもいいじゃない!十分あなたは上手いんだから。」
――そう言われたとき、本人は
どんな気持ちになるのだろう。
僕だったら、正直あまりうれしくない。
優しい言葉なのはわかっていても、
きっと少し苦しくなるだろうな、、。
自分が必死に挑んでいるその舞台の意味を、簡単に「素晴らしい」で片づけられるような気がするからだ。
子どものコンクールとは違う。
そこには、人生がかかっている。
一つの演奏が、
自分のこれまでの全てを背負い、
未来への道を少しずつ切り開く。
その緊張と覚悟は、同じ舞台に立った人にしか分からないだろう。
僕みたいな凡人ピアノ弾きには、きっと分からないことなのかもしれない。
でも、それでも、
誰かの音を心から信じて聴ける人がいる限り、音楽は、きっと救われていく。
そして、信じられるその光は、やがて僕たち自身の心も温かく照らしてくれる。
小さくても確かな希望となり、日々の疲れや迷いをやさしく包み込む――
音楽は、そんな光になって欲しい。